いつもの大会にて | 種は種。

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しゅくりの個人趣味雑記おれにとってのログ。バトスピ中心。メカとケモノを愛します。バトスピ聖剣大戦世界王者2103。リンクフリー、報告は不要です。

風景
リバイバル


「……ではこのアタックは。」
「ありませんー、ライフで受けます。ありがとうございました。」
「ありがとうございました!」
机を挟んで向かい合う初老の男性と挨拶を交わして、その試合は終了した。
肩の力が抜け、自然と頬が緩むのを感じる。

「さっきのターン、アタックしちゃいけなかったのかなァ。」
「あの時に返し手がなかったらこちらの場が削られていましたから、
間違いではなかったと思いますけど、難しいところですね。」
ですよねえ。確かに。などとほとんど相槌のような雑談をしつつ、
二人は机の上に並べられたカードや小さなチップを片付ける。

「お父さんどうだった?勝ったの?」
対戦記録表に結果を記入していると、小さな男の子がすっと寄ってきていた。
「いや、負けちゃったよ。これ出してきて。」
その子は手渡された二枚の紙を受け取ると、少しがっかりしたような面持ちで
すぐ近くのカウンターへその紙を置いてきた。その行き来の最中も、
どうして負けたのかや相手はどんなデッキだったのか
あのカードは召喚できたのか強かった弱かったのかなどなど、問う口が止まらない。
使われたのはお前と同じような赤デッキ、アタックしたらカウンターされて、
返しのターンにあれこれされて負けちゃったよ、といった感じでその父親はまとめて答える。
おれではとても口が回りそうにないくらい流暢だった。
似ているというか、普段からこういうやり取りに慣れているのだろう。
二人のやり取りを眺めながらそんなことを考えていたら、
父親のほうが急に思いついた顔になって言ってきた。
「そうだ、同じ赤だしデッキを見てもらったらどうだ?」

受け取ったデッキを手の中で広げてざーっと見た。確かに赤のカードで構成されたデッキだ。
「このデッキはさ、何をするデッキ?」と、その子に問う。
「迅雷!あとねジギーからゼロ式に進化するの!」
「そっかー、なるほどね。ちなみに何に勝ちたい?」
「全部!」との即答に、そりゃそうだろうなとは思いつつも質問を続ける。
「その中でもさ、一番勝ちたいのはなんだ?絶対に負けたくないのとかさ。」
「えー、じゃあ緑!フェニクスは絶対倒す!」
「ふむふむ。なら、このデッキの弱点は何だと思う?」
「んーとね、紫嫌い!ジギーをすぐ壊すんだもん、お父さんの紫がさー!」
その子がちらっと苦い顔を向けたほうを見ると、少し困ったような表情があった。
「ねえ、それでこのデッキどう?強い?」
「んー、そうだなあ。このデッキは40枚ぴったし?」
「お父さんがね、なるべく少なくしなきゃ駄目って言うの。だから40枚。」
「確かにね。でもそれだとさ、入れたいけど入らなかったカードがあるだろ?」
「あるよ!んっとねーバルバトスでしょ、ティンクルファイアでしょ、あと……お父さんカード出して!」


「――最終戦の組み合わせ発表しまーす。お席ご移動の準備お願いしまーす。」
次の試合を知らせる店員の声がスペース全体に広がる。
「あー、ちょっと時間足りなかったね。」
机の上に広げられたカードを手早く整理しつつ言う。
「次のが終わってまだ時間があるようならまた来なよ。大会中はカードを入れ替えられないしさ。」
「うん。えっと、ありがとう!……ございましたっ!」
席を立ちながら父親も同じように繰り返す。
こちらこそどういたしましてと返していると、自分の名前が呼ばれた。
また次の試合が始まる。